【イベントレポート・後編】ZAKIMIペアリングナイト2024.12.23

ソムリエ 田崎真也氏が提案するメニューとともに泡盛古酒「ZAKIMI」を味わう、一夜限りのペアリングイベントが2024年8月19日にホテル椿山荘東京のメインバー「ル・マーキー」にて開催されました。ワインだけでなく焼酎・泡盛など日本各地のお酒に深い造詣のある田崎真也氏の解説により、泡盛古酒の魅力をあらためて発見する2時間となりました。後編では田崎氏によるペアリングセミナーの様子をお届けします。

『ゆく』、『顔』、『台風』、それぞれの銘柄に合わせて田崎氏が考案したメニューは計4品。田崎氏に各銘柄の香りや味わい、料理との親和性を解説いただきつつ、実際の風味と照らし合わせながらペアリングが進みました。泡盛の製造工程や熟成の原理に基づいた田崎氏の緻密な言語化により、捉え難い香りという対象を明確に意識することができ、複雑な泡盛の味わいを克明に体感することができました。

「ゆく」×6種の貝のサラダ仕立て

まずは8年熟成の『ゆく』とのペアリング。『ゆく』の香りは、田崎氏曰く「石垣島の白い砂浜に立ったとき、海から吹いてくる風のような香り」。一般的に薬品や海藻に喩えられるヨード系の香りで、泡盛を特徴づける香りでもあります。さらに、原料に石垣島産のうるち米を使用していることで、よりお米の風味や甘味が際立った香りを感じられます。

『ゆく』とペアリングされた料理は「6種の貝のサラダ仕立て」。ミル貝や帆立など6種類の貝に、海ぶどう、シークワーサーのジュレ、ゴーヤを添えた、海の味わいをストレートに感じられる一品です。若い泡盛がもつ海を想起させる香りが、貝をはじめとした海の味わいをより一層引き立たせます。

「蒸留酒のペアリングで難しいのは、ワインや日本酒のように味覚に訴えるような成分が含まれていない点です。」と話す田崎氏。料理に香りというもう一つのスパイスを加えるようなイメージで、料理とお酒を交互に堪能しました。

「顔」×ヒラメのポワレとカブのカラメリゼ

次は10年熟成の古酒と、10年樽貯蔵のブレンドによる『顔』とのペアリングです。「泡盛の熟成過程においては、初期の磯やサンゴを想わせる香りが、熟成が深まるに連れてバニラの香りに化学変化することが近年の研究でわかってきています。」と田崎氏。『顔』においては、まさに変化の最中にある甘いカラメルのような香りを感じることができます。

貯蔵樽に由来するバニラ香と泡盛が熟成される中で生まれるバニラ香とが合わさりつつ、そこにハチミツ様の香りが調和することで非常に甘露な印象の香りを形成しています。さらにクラフトジンの製造過程にも用いられるジュニパーベリーやターメリックといったスパイスの香りも加わり、より複雑で芳醇な風味に仕上がっています。

そんな『顔』に合わせるのは「ヒラメのポワレ」。蒸し焼きした舌平目にカブのカラメリゼが添えられ、アルベールというクリームソースと風味付けのアメリケーヌソースでまとめられた一品です。泡盛と料理、それぞれの甘く、まろやかな風味が相乗効果をもたらし、より甘美な印象が深まります。

「台風」×アグー豚のポトフ

最後は『台風』とのペアリングです。30年の熟成によるバニラ香への変化がはっきりと感じられます。遠めに嗅いだとき感じる、わずかに海の香りを含んだバニラ香は、鼻を近づけるに連れてカスタードクリームの香りへと変わり、さらにナッツ系のふくよかな印象や、白コショウ、コリアンダーシードといったスパイス香も加わって、徐々に複雑性を増していきます。

そんな『台風』と合わせるのは「アグー豚のポトフ仕立て」です。アグー豚のお肉はきめ細かい霜降りが特徴で、豊富な脂身に旨味と甘みが凝縮されています。別添えされたレフォール(山わさび)の入ったサワークリームをポトフに溶かし入れることで、全体がクリーミーかつスパイシーな印象でまとまり、『台風』の風味との親和性が高い一品に仕立てられました。食後は『台風』のもつ芳醇なバニラ香をより際立たせてくれる「クリーム・ダンジュ&バニラ風味のクレーム・アングレーズ」が提供され、フルコースのように見事にまとまったペアリングとなりました。

「個人的に『台風』は料理とのペアリングだけではなくて、食後に上質なブランデーを味わうように、単体のピュアな状態でも楽しんでいただきたいと思っております。」と話す田崎氏。冷蔵庫に保存し、常温に馴染んでいくときの香りの変化を楽しみながら、少しずつ味わうのがおすすめとのこと。

『ゆく』、『顔』、『台風』と熟成の過程を辿るように組み立てられたペアリングを通して、30年という時を経て芳醇に変化していく泡盛の特性を理解するとともに、蒸留酒としての泡盛の魅力と価値を再発見する一夜となりました。