原研哉さん×座喜味社長対談「風土と酒」後編2022.08.08
原:八重泉では古くから古酒造りを大切にされています。蒸留したお酒をすぐに出荷するのではなく、何年か寝かせて熟成させてから出荷するというポリシーはどのような考えから生まれてきたのでしょうか。
座喜味:泡盛の場合、年数を重ねることによって味に深みや甘みが徐々に加わってきます。むしろ造って1年2年の若いお酒だと荒々しいけれども、年が経てば経つほどまろやかになるので寝かした方がいいのです。ですから造った時から何年も寝かせることを念頭に入れていて、新酒をすぐ売ろうという考えはありませんでした。
原:古酒を主軸に据えた新たなブランド「ZAKIMI」には八重泉のこれからの顔となってほしいですね。熟成にあたってはどんな風に寝かせているのですか?
座喜味:これまではアメリカンオーク、フレンチオークを使っていたのですが、最近はスパニッシュオークの樽を使っています。3種類の樽の違いが酒にも異なる風味をもたらします。スパニッシュオークは2020年から導入した樽で、泡盛を寝かせてまだ日が浅いものの思いの外、泡盛との相性がよいことがわかりました。甘み、香り、そして熱帯の気候が加わったのか、無二の味わいが生まれつつあります。スペインのオークの場合、新樽なんです。これまではシェリーやバーボンに使われてきた中古の樽を使ってきたので、その味が移りますが、今回、スペインからの樽は何も入っていなかった新樽なのでこれまでにない泡盛ができると期待しています。
原:熟成する過程で樽香が加わり、それが甘みにも関わっているのでしょうか。ウィスキーは無味で、結局は香りなんだと思っていましたが、泡盛の場合は無味というより独特の風味を感じます。また、焼酎は辛いという印象がありますが、泡盛からはまったりとしたほのかな甘味を感じます。
座喜味:その甘みはやはり黒麹が生み出しているのだと思いますよ。
地域資源としての泡盛
原:近い将来、海外からの訪日客が増えていくことが予測されていますが、地域発の高付加価値としてZAKIMIを打ち出していきたいと考えています。超高級ホテルやそれに類するサービス施設が次々とできてくることが想定されます。来訪者はせっかく訪れた日本ですから、この地の酒を飲みたいという好奇心は持っているはずです。富裕層に向けては700mlで20万円程度の酒を提供していくことも視野に入れておきたいです。ハイエンドなバーやレストランのメニューにはそうした高価格帯の酒が既に存在するわけで、30年もの古酒であるZAKIMI「台風」はその辺の価格帯に見合う設定にしています。
座喜味:30年古酒は八重泉の中で一番古いお酒になります。30年前に仕込んだん酒であり、いつかこの古酒を商品として販売しないといけないと思っていました。とはいえ、どうやって商品化しようと思案していた時、原さんの1本20万円という価格設定の酒に見合うものということで、30年古酒しかないと思ったのです。
原:30年物の古酒を一気に売り切ってしまうわけにはいかないと思いますが、毎年仕込んだものを30年後に古酒にしていくための仕組みはできるのでしょうか?
座喜味:今までは古酒に関してそれほど古いものを求めていなくて、5年古酒でしたら5年で商品として販売し、10年古酒であれば10年で商品にしていくというある程度短い期間で商品化していくサイクルができています。しかし、これからはさらに年代が経った20年、30年物のお酒の販売を見据えて計画していく予定です。
原:僕は30歳前後の頃に日本のウィスキーメーカーの瓶やラベルのデザインをしていたことがあります。研修を兼ねてスコッチウィスキーの蒸溜所やコニャックの蒸溜所、ボルドーのワイナリーやシャンパーニュ地方などを歴訪したことがあります。そこで見た景色が酒のイメージと重なります。モルトの効いたウィスキーを飲めばスコットランドの風景が目の前に広がる。シャンパンを飲むと、「ドン・ペリニヨン」が薄暗い地下蔵にそれこそ山のように横積みにされていて「NEWYORK」とか「TOKYO」とか、それぞれの山に大きな表札が置かれている、まるで、幸せの場所を捉えて炸裂するのを待つ幸福の火薬庫のような光景を思い出すのです。ボルドーのワインは、シャトーや美しい葡萄畑の風景と重なります。それは酒というもののイメージが風土によってできるからだと思うのです。「ZAKIMI」も同じです。石垣島では、環境のすべてにおいて自然の強さに圧倒されました。そうした人智の及ばない自然と、八重泉が培ってきた泡盛造りの技術に凝縮された人間の知恵が結晶したものが「ZAKIMI」です。石垣島という風土の賜物としての泡盛を目指したいですね。
座喜味:「ZAKIMI」を通して酒の持っている力、そして石垣島、八重山諸島の力が合わさることの相乗効果に期待したいです。
原:デザイナーとしては酒のブランディングをして終わりではなく、酒の今後を見据えたロードマップを描いていくつもりです。引き続きよろしくお願いいたします。
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